呼吸法でリラックス〜自律神経を整える効果的なやり方は?

本マガジンご利用の皆様へ(注意事項等)
みなさんは、「呼吸」をしていますか? 当然、していますね。
しかし、私たちは普段、自分が呼吸していることを意識することはほとんどありません。電車に間に合うように小走りしたりジョギングなど運動したりして、息が上がったときに初めて気がつくくらいでしょうか。
それくらい、呼吸というのは自然にしているものです。そこで、「呼吸法」を効果的に行う上で、まずは呼吸そのものを知ることから始めましょう。
呼吸のしくみ:自律神経・交感神経・副交感神経について
いまさら当たり前のことですが、私たちは呼吸をしなければ生きていけません。
生きている間、私たちは空気を肺に吸い込むことによって体内に酸素を取り入れ、反対に肺から空気を吐き出すことによって体内から二酸化炭素を排出します。この呼吸運動は、寝ている間も続いています。これは心拍などと同じで、私たちの意思で止めることはできません。
このように、生命を維持するために、自分の意思とは関係なく一日中臓器の活動を調整し続けているものを「自律神経系」といいます。
では、呼吸とは一体どういう運動なのでしょうか? 私たちの日常的な感覚からして、空気が入ってくるから胴体(肺)が膨らんで、空気が出ていくから胴体(肺)がしぼむ、とお考えではないでしょうか?
実はそれは間違いなのです。本当は、胴体(肺)が膨らむから(体内と体外の気圧差が生じて)空気が肺に流入し、胴体(肺)がしぼむから空気が外に流出しているのです。
では、どうやって肺(の容積)を膨らませているのでしょうか?
それは、肺周辺の肋間筋や横隔膜といった「筋肉」を使って行っています。ここで重要なのは、「筋肉」を使うという点です。私たちが「筋肉」を使う(緊張させる)とき、自律神経系のうちの「交感神経系」が高まります。
例えば、握りこぶしや力こぶを作ってみれば分かりますね。力を入れるということはすなわち筋緊張ですから、そのときは交感神経系が高まるわけです。つまり、息を吸うときには、(筋緊張して)交感神経系が高まるということです。
逆に、息を吐くときには、筋緊張を解いて胴体(肺)がしぼみますから、このときは「副交感神経系」が高まります。例えば、握りこぶしや力こぶを作ったら、それをパッと解いてみてください。それが筋弛緩です。つまり、息を吐くときには、(筋弛緩して)副交感神経系が高まるということです。
呼吸法がもたらす効果
呼吸は、「自律神経系」によって意思とは無関係にコントロールされていますが、心臓などの循環器系や胃腸などの消化器系と違って、唯一、少しだけ意思的にコントロールできます。
つまり、意思によって一定時間呼吸を止めていたり(ただし、永遠に止め続けることはできません)、呼吸のリズムを変えたりすることができます。
また、自律神経系は、交感神経系と副交感神経系の二つから成り立っていますが、この二つは同時に高まることはありません。一方が高くなれば必ず他方は低くなるという、シーソー(ぎっこんばったん)のような関係にあります。
さて、ここまでくるともうお分かりですね? 私たちは、なかば意思的にコントロールできる呼吸を整えることによって、自律神経系のバランスを整えることができるわけです。
怒り・イライラやストレスなどによって、私たちの自律神経系の中の「交感神経系」が高まります。交感神経系が高まっているときは、呼吸が浅く速くなります。このとき、呼吸を整えて「副交感神経系」を高くすれば、シーソー関係にある交感神経系は低くなり、おのずとバランスが取れてくるのです。では、副交感神経系を高めるにはどうすれば良いでしょうか?
そうです。深くゆっくり呼吸をするように心がけ、吐く息をなるべく長くすれば良いのです。
これがいわゆる「調息(ちょうそく)」です。
このように、呼吸を整える(調息する)ことによって副交感神経系が高まりますから、おのずと交感神経系は低くなります。結果として、心身ともに落ち着いてきます。
また、呼吸数が減れば、それだけ血液中の二酸化炭素濃度が高くなりますので、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが分泌されます。セロトニンは精神の安定など、いわゆる心のバランスをもたらします。
リラックスするための呼吸法の種類とやり方
「呼吸法」は通常の「呼吸」とは違うために「法」と付いています。
つまり、意思とは無関係の単なる呼吸運動ではなく、意思的に呼吸する方法のことを呼吸法と呼んでいます。世の中にはさまざまな呼吸法が紹介・提唱されていますので、いろいろと試してみて、自分に合った呼吸法を見つけていくのも良いでしょう。
呼吸法の種類:胸式呼吸法と腹式(横隔膜)呼吸法
ここでは、簡単で効果があり頑張らなくてよい、ごくシンプルな方法をご紹介します。
まず、呼吸法には「胸式(きょうしき)」と「腹式(ふくしき)」があります。
胸式とは、息を吸ったときに胸が膨らみお腹が縮み、息を吐いたときに胸が縮みお腹が膨らむやり方です。これは主に、肋間筋(肋骨についている筋肉)でもって肺の容積を大きくしています。
一方、腹式とは、息を吸ったときにお腹が膨らみ、息を吐いたときにお腹が縮みます。これは、主に横隔膜の上げ下げでもって肺の容積を変える方法です。このとき、横隔膜を下げることで肺の容積が大きくなるのですが、その結果、胃腸などの内臓が前に押し出されてお腹が膨らむわけです。
ですから、この腹式呼吸法は「横隔膜呼吸法」とも呼ばれます。「胸式」か「腹式」かという点で言えば、より深くゆっくりたっぷり呼吸するために、「腹式」で行うことを心がけて下さい。腹式呼吸がよく分からない(うまくできない)という人は、手をお腹に当てながら練習してみると良いでしょう。
鼻と口、どちらで呼吸すると効果的?
次に、「鼻呼吸」か「口呼吸」かという点についてですが、呼吸は基本的に「鼻」で行うものですから(口でも呼吸できますが、これはあくまで補助的です)、呼吸法としても「鼻」で行うと良いでしょう。
ただし、緊張や不安が高すぎて、今すぐどうにかしたい、どうしても落ち着きたい、 という場合には、吐く息だけ「口」で 行ってみてください。そのとき、なるべく長く吐き切ると良いです。コツは、口を「う」の時の形にしてフーッと長く吐き出すことです。そうすれば、高い緊張や不安も少し和らぎます。
吸う息と吐く息のバランスについては、基本的に、吸う息は短めで良いです。なぜなら、吸っているときには筋緊張している、つまり交感神経系が高まっているからです。一方、吐く息はなるべく長めにすると良いでしょう。吐いている時というのは、筋弛緩しているとき、つまり副交感神経系が高まっている状態だからです。
ただし、注意点としては、決して呼吸を無理にコントロールしようとしないことです。秒を決めたりカウント数を決めたりして吸う息や吐く息を無理にコントロールしようとすると、やがて息苦しくなることがあります。なぜなら、体格や肺活量などは人によって違いますし、日によって体調も違うからです。調息しようという意思は大切ですが、必要以上にコントロールしようとしてはいけません。大原則は、シンプルにゆっくり呼吸すること、ただそれだけです。
<呼吸法のPOINTおさらい>
- 鼻呼吸を意識する
- 吸う息は短め、吐く息はなるべく長めに
- 必要以上に呼吸をコントロールしようとしない
- まずはゆっくり呼吸することに集中する
ゆっくりした呼吸を心がけていれば、必然的に、それは自分の呼吸を観察していることになります。呼吸は、そうして観察しているだけで、徐々にゆっくりとなっていきます。
ですから、ゆっくり呼吸しようと意思的に思うのは最初だけで、そうして自分の呼吸を観察していると、やがて、勝手にゆっくりした呼吸になっていきます。それが自然な呼吸であり、バランスの取れた呼吸であり、心身ともに落ち着いた呼吸です。
「呼吸法」というのは、あくまで導入であり、本来、こうした自然な呼吸でいられるようになることが、もっとも望ましい状態といえます。
呼吸法のコツ:呼吸の「間」を意識する
呼吸を観察するときのコツをもう一つ、付け加えておきます。これは、必ずしも実践する必要はありませんが、呼吸に少し興味が湧いた人は、試してみると良いかもしれません。
私たちの呼吸は決して、吸って吐いてを連続的に忙しなくやっているわけではありません。息を吸って(吸息)、息が出始める(呼息)までには、一定の「間」がありますね。この「間」を大切にして、丁寧に観察してみてください。肺に吸い込んだ酸素が身体にじんわりと染み込む様子を想像しても良いでしょう。
次に、息を出し切って(呼息)、息を吸い始める(吸息)までにも、「間」があります。この「間」も大切にしてください。
つまり、呼吸とは、吸ったり吐いたりするところだけではなくて、何もしていない「間」もまた、呼吸の一部だということです。この「間」をじっくり丁寧に観察していると、呼吸はさらに深くゆっくりとなっていきます。
ここでは、大原則を守るだけのシンプルな呼吸法をご紹介しました。呼吸法は身体を用いた技法です。当然、身体は人それぞれ、つまり、個人差があります。
巷にはたくさんの呼吸法が紹介・提唱されていますので、興味のある方は色々と試してみながら、自分に合った呼吸法を身に付けていくと良いでしょう。
このコラムの執筆者
白鷗大学 湯川進太郎 先生
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