更年期の「もの忘れ」原因と対策、認知症との違いは?

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「顔は覚えているのに名前が思い出せない」「食材は取りそろえたつもりなのに、あれこれ迷って夕飯の献立が決められない」「まだまだやることが残っているのに、ぼんやりして集中できない」なんてことがありませんか?こんなとき、「ちょっと疲れているのかな」と軽く考えてしまいがちですが、更年期症状が影響しているのかもしれません。今回は、「もの忘れ」と更年期の関係、対処法についてご紹介します。また、「もの忘れ」の原因にあわせて、どんな対策があるかもいっしょに考えていきましょう。
目次
もの忘れは「年齢」のせい?考えられる主な原因
更年期外来で患者さんが訴える症状のなかでも「もの忘れ」は頻度が高く、更年期外来を受診する女性の約2/3がもの忘れを自覚しています※。
※Odai T, Terauchi M, et al. Food Sci Nutr. 2020; 8(8): 4422-4431.
ではなぜ、更年期になるともの忘れや集中力の低下などが起こったり、考えがまとまりにくくなったり、ぼんやり・うっかりすることが増えるのでしょうか。原因として、次のことが考えられています。
1.血管運動神経症状
更年期になり女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が低下すると、血管運動神経症状とよばれるものが起こります。具体的には、「ほてり」「のぼせ」などのホットフラッシュや「発汗」が知られています。例えば、ホットフラッシュが原因で夜中に目が覚めてしまうと、日中、睡魔に襲われたり、ぼんやりしてしまうことがあるかもしれません。

ホットフラッシュの主な症状と対策
2.不眠
性別に関係なく、一般的に加齢とともに不眠を自覚することが増えてきます。しっかりと睡眠がとれなかったことで、日中に眠気を感じて集中力や意欲の低下が起こり、もの忘れなどの認知機能の低下につながると考えられます。
3.その他の更年期症状やストレス
頭痛や肩こり、倦怠感などの更年期症状が集中力の低下につながり、もの忘れなどの認知機能の低下に影響することもあります。また、更年期には、家庭や社会で担う役割も増えていくため、それらがストレスとなり、もの忘れに影響すると考えられています。
認知症との違い
更年期にみられる「もの忘れ」のほとんどは認知症ではありません。その違いについて、具体的な例を挙げて説明してみました。ただし、ご自身で判断しないで、気になる場合はかかりつけ医や婦人科に相談しましょう。
・もの忘れ:
いわゆる「ど忘れ」と呼ばれる状態で、そのときに思い出せなくても、あとで思い出すことができます。例えば、外出先などで誰かと会った場合、その日付や場所、その人の名前などを忘れても、ふと思い出すときもありますよね。また、その体験自体は覚えています。
・認知症:
同じように、人に会ったという体験をした場合、誰にいつどこで会ったのかということだけではなく、「人に会った」という体験自体を忘れてしまうと、認知症が疑われます。また、認知症である場合は最近の出来事も思い出せなくなるため、蛇口の閉め忘れや、ガスコンロやストーブの火の消し忘れなどが頻繁にあらわれます。
もの忘れフローチャート
もの忘れが起こる原因はさまざまですが、自分の状態を知ることで、対処法が見つかるかもしれません。ここまでの内容に沿ったフローチャートを作ってみましたので、ここからは少し遊び気分で「もの忘れ」の原因を探ってみませんか?
★画像が小さくて文字が見えにくい場合は、拡大して見てくださいね!
★このフローチャートは、本文の捕足ですので参考程度にとどめてください。
イラスト/たがやす共創パートナー 田中友美乃
・お疲れマックス?:
日々やることリストに追われ、疲労困憊気味のようです。そのため、“脳みそ”がオーバーワークになってしまい、勝手にフリーズしてしまう状態です。完璧主義はポイッと捨てて、何にも考えないひとりの時間をもてるといいですね。休養することで、頭の中がスッキリすることが期待できそうです。また、不安なことはとにかく書き出してみるなど、自分なりにストレスを軽減する方法を探してみましょう。やることリストを頭の中だけにしまわないで、こまめにメモをする、スマホに録音するなどして、うっかりミスを乗り切りましょう。
・婦人科医の出番かも?:
ホットフラッシュが就寝中に起こる人もいます。寝汗で目が覚めることがありませんか?うっかりミスの原因が、睡眠不足ということも…。他にも、肩凝りや腰痛など気になる症状をまとめて相談できる、“かかりつけ婦人科医”を探し始めるのもいいかもしれませんね。
・眠り姫になりきれない?:
決まった時間にベッドに入り、睡眠時間は確保しているはずなのに、なぜか毎朝寝足りない気分で、だるい、眠いという方は、スマホを寝床に持ち込んでいませんか?就寝時は寝つきをよくするために寝る前にテレビ、パソコンやスマートフォンなどの明るい画面を見ることを避けるよう心がけましょう。
・隠れ疲労にご用心!:
自覚がなくても、実は疲れがたまっていることがあります。疲れのチリツモはお勧めできません。疲れを感じたら、ヨガやマッサージでリラックスしたり、好きなことをして過ごす時間をもってリフレッシュを心がけてみましょう。
・健康管理は忘れずに!:
更年期になっても、特に症状があらわれない人はいます。困った症状がなくても、毎年の定期健診では骨密度やコレステロール値に注意して、気になるときはかかりつけ医に相談しましょう。
更年期症状や不眠、ストレスなどの影響によるもの忘れは更年期症状が落ち着くなど、それぞれの原因が解決すればなくなる可能性がありますが、年を重ねるともの忘れは増えてくるもの。もの忘れは順調に年を重ねている証拠と受け入れて、気持ちも明るく「もの忘れ」と上手につきあっていきましょう。
コラム:「記憶の種類」について
記憶の種類は、覚えている時間の長さで次のように分けられます。
- 長期記憶:数週~数十年覚えている記憶
- 短期記憶:数分~数日程度覚えている記憶
年をとると記憶力が低下しますが、特に長期記憶に影響することがわかっています。短期記憶は内容の正確さやそれを覚えるまでにかかる時間には影響がありますが、病気などの記憶障害がなければ、短期記憶が目立って低下することはないといわれています。
監修
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座
教授 寺内 公一 先生